理事長からのメッセージ(2014年師走)

 種々ありました2014年も師走になりました。これが今期理事長としての最後のメッセージです。

 今年の日本分子生物学会年会は11月末に、小安重夫先生の年会長の陣頭指揮の元、パシフィコ横浜にて行われました。期間は3日と短くなりましたが、おかげさまで7,565名もの参加者に恵まれました。皆様、多数のご参加をありがとうございました。2009年の小原年会の折に行われたポスターセッションの「ディスカッサー制」が復活し、シニアの先生方も多数、ポスターセッションに参加して頂いて、サイエンスに関する熱い議論が為されたのは何よりでした。私自身は横浜市教育委員会との連携による「サイエンス&アート」企画のプロデュースに関わらせて頂きました。

 その総会の折にもお話しましたが、今期、本学会として行った活動を振り返りここに記しておきたいと思います。

 まず、新しい会員制度を制定したことを取り上げます。これまで本学会の一般会員であり、ご退職された方は、お申し出により「シニア会員」となられた場合、年会費は学生会員と同じ(3000円)、年会参加費は無料となります。この制度を活かして、これからも学会活動にご参加頂けたらと思います。一方、初等中等教育に関わる教員等の方に向けて、「次世代教育会員」を設けました。こちらは、年会費は一般会員と同じ(6500円)ですが、年会参加費は無料です。ぜひ、年会にご参加頂いて、最先端の生命科学研究の情報や現場の雰囲気を、次世代の生徒さんたちに伝えて頂ければ幸いです。

 また、今期から「男女共同参画委員会」を発展的に「キャリアパス委員会」に改組しました。塩見美喜子委員長のご活躍により活発な活動が為されましたが、中でも、2012年に男女共同参画学協会連絡会が行った大規模アンケート(総回答数16,314名)から、本日本分子生物学会会員データ(2,448名分)を抽出し、キャリアパス委員会の皆様を中心として独自の分析を行い、「第3回日本分子生物学会男女共同参画実態調査報告書」がまとめられました。その結果をもとに「男女共同参画のさらなる推進を目指して〜女性研究者リーダーシップ養成と充実したライフイベント環境整備に関する要望書」を作成し、12月2日に塩見委員長とともに、文部科学省科学技術・学術政策局の川上伸昭局長および同省生涯学習局の河村潤子局長に手交して参りました。両局長とは生命科学系研究者のキャリアパスや男女共同参画に関わる問題に関して、じっくりと懇談させて頂きました。今後の施策に繋がることを祈っています。

 さて、研究倫理に関する問題に関しては、前期からの重要な申し送り事項でもあり、昨年の年会時には6セッションにわたる研究倫理フォーラムを開催しました。この内容は全文記録として4月にHPに掲載致しましたが、その間に起きた論文不正が社会を巻き込んだ事件となったために、種々のことが混乱しました(本学会から理事長声明を出したこと等の経緯については、以前のメッセージをご参照下さい)。この事件の他にも研究不正問題が発生していたこともあり、8月26日付で文科省の研究不正ガイドライン(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/1351568.htm)が決定され、来年4月から実施されます。すなわち、研究倫理問題は新たなフェーズに入っております。ガイドラインでは研究者のみならず研究機関の取るべき責任について明示されており、大学等ではすでにその対応について検討されていることと思います。学会がどのように研究の公正性を保つための活動をするのかについても、次期の理事、執行部、委員会の皆様によく検討して頂くことが必要と考えられます。

 これからの学会活動においては、社会との対話がより重要であり、第18期理事長を仰せつかった際には、生命倫理の問題についても学会として取り組むことができればと思っておりました。現在、iPS細胞などの多能性幹細胞から生殖細胞を作製できたり、CRISPR/Cas9などのゲノム編集技術を用いたりすれば、より簡便に遺伝子改変生物を作製することが可能です。生命科学者は倫理観に基づいて自らの研究に取り組む必要があり、また研究によって派生しうるリスクについても社会に伝えていくべきでしょう。

 年が変わると新理事長、荒木弘之先生による第19期が始まります。2015年の年会は影山龍一郎先生により神戸にて、2016年は一條秀憲先生により横浜で予定されています。この2年間の間、理事・監事の先生方、各種委員会委員および幹事の皆様、学会事務局の方々には大変にお世話になりました。18期の終わりにあたり、これまでの多大なご支援に感謝するとともに、新しい期の学会の幕開けを歓びたいと思います。日本分子生物学会のさらなる発展への期待を込めて、最後のメッセージを締めくくります。

 ありがとうございました。

2014年12月
特定非営利活動法人 日本分子生物学会 第18期理事長
(東北大学大学院医学系研究科)
大隅 典子