第18期理事長挨拶

portrait of Prof. Noriko Osumi

会員の皆様へ

 新しい年が始まりました。今年から第18期の日本分子生物学会の理事長を仰せつかりました東北大学の大隅典子です。これから2年の間、どうぞよろしくお願いいたします。

 日本分子生物学会は1978年に初代会長渡邊格先生に賛同された約600名の方々により誕生しました。現在の会員数は1万5千名を超え、生命科学系では日本でもっとも大きな学会に成長し、体制も任意団体からNPO法人へと変り、学会を構成する人的多様性も増しました。このような中で、第17期は小原理事長の許、副理事長を務めておりましたが、今期あらためて本学会の運営をお預かりする責任を感じています。

 まず、ここで一つお詫びをしなければなりません。2012年の福岡年会(阿形清和年会長)の前にお送りしました会員一斉メール(12月3日付)の中に不適切な文言があったために、少なからぬ会員の皆様には「分子生物学会では男女共同参画に関して後退するのではないか」というご心配をおかけしました。これはまったく私の不徳のいたすところでしたが、その趣旨は、男女共同参画という問題を若手問題も含めたより広い視点から捉えて、男女ともに共同して働きやすい・生活しやすい社会を推進したいということにありました。

 分子生物学会における男女共同参画は、2001年の年会保育室設置WGに始まります。翌年、初めての年会保育室設置と共に男女共同参画WG(大坪久子座長)がスタートし、2006年には委員会へと昇格して、私は初代委員長を務めさせて頂きました。2009年には、第2回学協会連絡会大規模アンケート回答者の中から本学会会員のデータをもとにした分析を行い、「第2回バイオ系専門職における男女共同参画実態の大規模調査の分析結果」として本会HP上に公表しています 。松尾勲WG座長を中心になされたこの分析の結果、ポスドク等のキャリアパスや意識改革などの男女ともに共通した問題が浮かび上がっておりました。ちょうど今年は昨年末に実施された第3回学協会連絡会大規模アンケートの分析を行うタイミングでもあり、その結果を科学人材育成施策に繋げることができればと思っております。ちなみに、分子生物学会では2448名(会員に対する回答率16.1%)からの回答を頂きました。会員皆様のご協力に心から感謝致します。第18期は、執行部や各種委員会の委員長や構成メンバーにも多くの女性会員に参画して頂いておりますが、今後も女性のvisibility向上やリーダー育成に努める所存です。

 もう一つの大きな問題は、論文不正に関することです。この件に関して、福岡年会では前日に行われました理事会においても議論しました上で、初日の夕方に「緊急フォーラム」を開催し、これまでの学会の対応等についての経緯を説明しました。学会としてのアクションは、17期(小原雄治理事長)において、11月8日に、東京大学総長宛で調査結果の早期公開を求める文書を送り(HPに掲載済み)、その後さらに追加の要望や関係機関への要望書を送付しております。

 本学会において、論文不正の問題は過去にも取り上げた例があり、研究倫理委員会が設置される契機となりました。この度は、学会主催による若手教育シンポジウム等の中心としても活動された方が、論文不正に関与する形で辞職されました。この事実は、大変に重いものと承知しております。一方で、学会は、論文不正の実態を調査するための資料や権限を持ちあわせていないことをご理解頂きたいと考えます。

日本分子生物学会は、生命科学分野を包括する最大規模の学術団体ですので、今後も同様の科学不正が生じないためには何をすべきか、研究倫理への啓発も含め、改めてその対応について真摯に取り組みます。科学者を取り巻く競争環境が厳しくなった中で、論文不正は研究室を構成するすべての方々に関わる問題であり、中でもPIのラボ運営における研究倫理規範が問われているといえるでしょう。私たちは科学に対する愛と誇りと誠実さをけっして忘れてはならないと思います。

 今期の学会運営につきましては、季節毎に理事長からのこのようなお手紙でもお伝えするとともに、公開情報はすみやかにHPに掲載致します。また、運用方針が整い次第、FacebookなどのSNSツールも活用し、一斉メール配信でのご連絡は可能な限り少なくする方針です。もちろんメールやSNS上での会員からのフィードバックも期待しています。

 皆様にとって、今年が実り多く幸せな年となりますことを心からお祈りしています。

2013年1月

特定非営利活動法人 日本分子生物学会 第18期理事長
(東北大学大学院医学系研究科)
大隅 典子