「研究者人生における様々な選択肢」開催報告

●日 時:2017年12月9日(土)11:45~13:15

●会 場:神戸ポートピアホテル 本館地下1階 和楽(第4会場)

●参加者:約290名

●司 会:第一部 澤崎 達也(日本生化学会男女共同参画推進委員/愛媛大)
第二部 斉藤 典子(日本分子生物学会キャリアパス委員/がん研)

 

 2017年の年会では、最終日に生化学会男女共同参画推進委員会と合同で例年より長めのランチョンセミナーを行いました。今年もケータイゴングによる双方向会議システムを使用し、参加者の意見を常にモニタしながら議論をいたしました。会場は例年にも増して満員御礼の大盛況でした。

 今回は「研究者人生における様々な選択肢」というテーマで行いました。博士号をとってもなかなか終身雇用の職を得ることが難しい、いわゆる「ポスドク問題」などの影響により、博士への進学率が激減し、また30代の研究者人口も10年前に比べて半減しています。そこでキャリアパス委員会ではこの負のスパイラルを断ち切るべく、「どの段階に不安を抱いて研究者の道を選択しないのか」について、研究者になっていく過程で遭遇するであろう「壁」を洗い出して、その解決策を若手と一緒に考えていこうという趣旨のランチョンを企画いたしました。

 最初に事前資料として夏に取らせていただいたアンケート結果を私がまとめて報告しました。アンケートはこれまでの最多となる842名からの回答をいただきました。キャリアの問題にみなさんが大きな関心をお持ちなのが伺えます。アンケート結果で印象的だったのが、修士課程ですでに就職を決めている学生さんに聞いた質問で、「生活できるだけの経済的サポートがあったら博士課程に進学しましたか?」という問いに対して、なんと半数が「はい」との答えでした。つまり半数の方は経済的な理由で博士課程への進学を諦めているということになります。これはなんとかしないといけませんね。アンケート結果はすでに文科省の担当者にお渡ししてありますので、時期を見て意見交換に伺う予定です。全てのアンケート結果は学会ホームページよりご覧になれます。

私の発表のあと、第一部、第二部に分けて、パネルディスカッションを行いました。第一部では「学生時代の選択肢」について、第二部では「卒業以降の選択肢」についての意見交換を行いました。全文記録も学会ホームページで公開しています。是非お読みください。

 まず第一部の議論で重要に感じたのは、博士号を取ることのインセンティブ、つまり博士号を取ったらこんなにいいことがあるよ、についての議論です。私の個人的な意見としては、好きな研究を思いっきりできるというのが一番大きいのですが、それだけでは多様な学生が大学院に進む現在では弱いですね。パネリストからは、博士とそれ以外のキャリアでその後の収入を比較すると、博士号取得者の方がやはり高いというデータも示されました。欧米では官僚や企業の役員クラスは学位を持っていることが普通ですので、日本も徐々にそうなっていくという期待があります。また、製薬企業では博士の採用について積極的になっているという、うれしい現状も紹介されました。実際に多くの企業で研究職を中心に博士の採用を増やしています。

 博士課程学生の経済支援についても、意見の交換がなされました。実はアンケート結果から4割くらいの博士課程の学生は、TAやRAなどの賃金としてある程度の給与をもらっています(DCは除く)。ただ研究室間で額にかなりの差があり、その実態は明るみに出ておらず、修士や学部学生にはあまり知られていません。できれば、統一した額を支給し、その情報を公表すれば、学生の進路選択にポジティブな影響があると期待されます。

 第二部では、学位取得後の就活やライフイベントとの関わり、研究者としての「壁」について意見の交換がなされました。若手のライフイベントと仕事のバランスをどう取るかは難しい問題ですが、これは研究者社会だけの問題でもありません。かえって大学の研究者は、パートナーが同じ職場だったり、時間の融通がつけやすいなど、ライフイベントをこなすための有利な点もあるという意見がありました。育児や介護は、後回しにしたり、先送りできるものではありませんので、ライフイベントが優先的に行われるのは当然だと思います。もちろん実際には難しいことも多いのですが、研究者のコミュニティーが見本となり、最善の解決策を提示できれば素晴らしいですね。手始めにライフイベントが比較的集中する30歳代に限った公募などの年齢制限は緩和あるいは撤廃してもらいたいです。また若い研究者に多い任期制のポジションについても、研究者人口が減少傾向にある中で、その良し悪しを総括する時期に来ていると思います。

 今回は議論できませんでしたが、PIや管理職の方の最大の「壁」は「研究費の確保でした」。PIや管理職の方の下には多くの若手がおりますので、若手育成の観点からも研究費の安定的な確保は重要です。機会がありましたらこの問題も取り上げていきたいと思います。

 本委員会では今後も引き続き若手を応援していきたいと考えております。

 どうぞお力をお貸しください。

キャリアパス委員会
委員長 小林 武彦