「卓越研究員制度の活かし方―選ぶ側の論理と選ばれる側の論理」開催報告

●日 時:2016年11月30日(水)11:30~12:45

●会 場:パシフィコ横浜 会議センター 3階301

●参加者:約260名

●講 演:唐沢 裕之(文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課 室長)

 

 2016年のキャリアパス委員会主催ランチョンセミナー・キャリアパス企画では、今年度より始まった卓越研究員事業について取り上げました。事前アンケートには485人の方にのべ374件の自由回答を頂き、当日は約260人の方に会場まで足を運んでいただきました。しかしながら、振り返ってみるに、これだけ多くの方にご協力いただいたにもかかわらず、「この事業をどのように自分なりに活用するかヒントになるようなものをそれぞれの立場の人に持ち帰ってもらおう!」、という当初の目標はあまり達成できなかった、というのが正直な感想です。実際、177人の方に答えていただいた事後アンケートの結果は「まあまあ面白かった」という人が半数近く、こういったアンケートに答えてくださるのは元々強い関心を持っていただいている人が圧倒的多数、というポジティブバイアスを補正すれば、「まあまあ面白い」は「イマイチ」と読みかえるべきで、もう少し事前準備をしっかりとしないとランチョンセミナーという限られた時間内で実質的な話し合いにはならない、ということを痛感した次第です。

 今回のキャリアパス企画は、2016年3月30日のキャリアパス委員会の会合において卓越研究員事業を取り上げてみようという方向性が決まり、4月18日に一度文科省を訪問して、「この制度をどのように活かしていけば良いのかを考える会にしたい、是非担当の方に参加していただきたい」、という希望を伝えました。その際、文科省では夏に人事異動があるので、もし新しい担当者の参加を検討されているのであれば人事異動が終わった秋口のタイミングで内容を詰めた方が良いのではないかというアドバイスをいただき、文科省の方にもいろいろと尽力していただいたところ、9月上旬に人材政策課で対応していただけることになりました。その後、「採用される側」の知り合いの若手研究者の方にも協力していただいてアンケートを作成し、9月26日にアンケートを実施、その結果を持って11月8日に、小林委員長と事務局の並木さんと再度文科省を訪問しました。その時はランチョンセミナーでご講演いただく予定だった塩崎課長とお会いできるはずだったのですが、その前日に起きた研究不正関連の事案への対応で急遽キャンセルとなり(研究不正め、、、)、代わりに人材政策課の課長補佐や係長の方に対応していただきました。アンケートの結果はかなり厳しいものであったこともあり、そのあたりを率直に伝えすぎてしまって話がなかなかかみ合わなかったところもありましたが、若手研究者が活躍できるような環境を作ろうと日々尽力されている文科省の方々の辛苦はひしひしと伝わってきました。ただ、なんとなくですが、議論の中で、一番の当事者である若手研究者が置き去りにされているような印象を受けたのも事実です。

 一番印象に残ったのは、ポストを提示しながらも採用に至らなかった機関があまりにも多かったことは問題なのではないか、という点についての議論において繰り返し耳にした、「この事業は大学や研究所の人事権に抵触しないように設計されている」というコメントです。そういうことは考えたこともなかったので、こうしたら良いのではないか、ああしたら良いのではないかと、僕らが脊髄反射的に考えることは、この基本方針に照らし合わせるとeditorial rejectになるのかと妙に納得してしまいましたが、もう少し採用される側の立場を考えた議論がなされても良いのではないかと思いました。また、卓越研究員候補者のリスト公開が何故できないのか、というこちらの質問に対して、担当者の方が「応募機関のインセンティブ」という言葉をよく使われていましたが、耳慣れない言葉で、最初は何を言っているのかよく分かりませんでした。確かに、文科省の補助金事業にどの機関も応募してこなかったら事業そのものが成り立たなくなりますし、大学なり研究所なり企業なり、ポストを用意してこの事業に応募してきた機関への「インセンティブ」を大切にするのは分からない話ではありませんが、応募する側の主たる層である若手研究者を一番大切にすべきはずなのに、ここでもやはり真の当事者が置き去りにされているのでは、という違和感を少なからず感じました。

 その後、キャリアパス委員のパネリストの間でスカイプ会議を行い、これまでの経緯を振り返って問題点を整理し、特に、企業へのキャリアパス、いわゆる「卓越浪人」への対応、年齢制限、の3点に的を絞ってパネルディスカッションをしてゆくことになり、会場の意見もできる限り拾っていくことを確認し、当日のランチョンセミナーに臨みました。

 残念ながら当初予定していた塩崎課長は予算編成時期ということもあり国会対応のために参加が叶いませんでしたが、唐沢室長に急遽ご登壇頂き、一応、形だけは文科省―採用機関側―応募者の3つの立場の人が一堂に会することができました。主な反省点は以下の4点です。

1)事前打ち合わせが足りなかった
可能であれば、文科省の側の人も交え、スカイプ会議で良いので数回は話し合う機会を設けるべきだった。

2)ケータイゴングで会場の意見を拾えなかった
司会の能力不足のせいでもあるが、会場からの意見をピックアップする時間を個別に設定したほうが良かった。

3)講演の時間が長すぎた
打ち合わせ不足のせいでもあるが、時間配分を見誤った。ここを15~20分ほどにしておけばもっと会場の意見を拾えたかも。

4)司会の練習不足
練習に費やした時間が短すぎた。

 反省することばかりでしたが、たとえ大成功でなかったとしても、こういう企画を学会として粘り強く続けていくことは大切なことではないかと思います。特に、文科省の方々は「採用する側」の方々と接する機会は多いと思いますが、「採用される側」である若手研究者の声をフィルターなしに聞く機会というのは、基本的にはゼロに近いのではないかと思われます。聞こえてくる声がゼロであれば、問題は存在しない、ということにもなりかねません。構成員の多くを学生や若手研究者が占める分子生物学会の年会において、当事者である若手研究者の声を施策側に伝えてゆく意義は、決して小さくないはずです。今後も、いろいろな人の手で、いろいろな形でこの手の企画が続いていくことを望んでいます。

(文責:座長・中川 真一)