「池上彰と考える―これでいいのか日本の生命科学研究―」開催報告

●日 時:2014年11月27日(木)11:45~13:00

●会 場:パシフィコ横浜 会議センター1階 メインホール(第1会場)

●参加者:約950名

●コーディネーター:池上  彰(東京工業大学リベラルアーツセンター 教授)

 

 私の知る限り、ほとんどの研究者「個人」は、誠実で、努力家で、しかも優秀です。しかし昨今のSTAP騒動をはじめ相次ぐ「不正問題」、そして対策が遅れている「ポスドク問題」など、テレビのバラエティー番組のネタにされてしまうほど、研究者の「社会」は一般社会から奇異な目で見られています。特に不正問題は研究者「個人」が防ごうと思えば防げる問題です。それでも繰り返し起こってしまう原因は一体なんなのでしょうか?

 1つには研究者社会の持つ閉鎖性があると思います。個人レベル、研究室レベル、研究所・大学レベル、研究者社会レベルでの閉じた人間関係が「個人」を間違った方向に誘導してしまうのでしょうか。そしていつの間にか世間の常識からかけ離れた“ケンキュウシャ社会”を形成してしまうのかも知れません(カタカナで書いた理由は「研究する者」の社会ではもはやなくなりつつあり、別種の“固有名詞”化しつつあるという意味です)。軽度の閉鎖性が競争意識と国民性からきているとすれば仕方のない面もありますが、度が過ぎた閉鎖性は、もはや周りからのチェックが届かず、不正を未然に防ぐことができなくなる「害」以外の何者でもありません。「私は不正などしません。関係ありません。」という方がほとんどだと思いますが、ひとたび問題が起これば、多くの人が巻き込まれ、新たな規則ができ、全員が被害を受けます。これはやはりみんなで考えていかなければならない問題です。

 状況打破の第一歩として、研究者以外の外部の方から客観的な評価あるいは「おしかり」を受けることは大切だと思います。今回の企画はそのような立ち位置からスタートしました。それで、「しかって」頂く方はどなたが適任かと考えましたところ、まず頭に浮かんだのは、様々なテーマに詳しく、ズバッとおっしゃる池上彰先生をおいていないのではということになりました。大変お忙しい方なので、断られるのを覚悟でお願いしたところ、「それは面白い、私も研究者の方にお聞きしたいことがたくさんあります。是非やりましょう。」とスーパーポジティブなお返事を頂きました。コーディネーターもお引き受け下さり、「台本なし、会の流れはパネリストと聴衆の反応を見ながら進めていきます。」とのことでした。私は何回かパネリストをやらせて頂きましたが、今回ほど緊張したことはありません。

 当日は予想通り、1,000名を収容するパシフィコ横浜の大ホールが一瞬にして満員になりました。最初に池上先生から「本日は容赦なく突っ込ませてもらいます!」との先制パンチが繰り出され、実際にかなり突っ込まれ返答に困るシーンがいくつもありました。パネリストの苦しむ姿をご覧になりたい方は、近々公開される予定の録画ビデオをご覧下さい。それ以外は、私たちの知るテレビ番組と同じように、池上先生の判りやすい解説とテンポのいい進行で、理系と文系の発想の違い、研究所と一般企業のガバナンスの違い、マスコミ報道の危うさ、ポスドク問題の重要性など、多岐にわたり意見が交換されました。新たな発見もあり大変有意義な会でした。終了後のアンケート調査でも約90%の方に面白かったと言って頂き、委員一同冷や汗をかきながら頑張った甲斐がありました。私としては、今回のシンポジウムで池上先生と分子生物学会に太いパイプができた!と思っており、これをきっかけに研究者社会がより開かれた、そして若者が魅力を感じて参加できるような、「大志を抱き研究する人の社会」になってくれると信じています。

(文責:座長・小林武彦)