編集長からのメッセージ

Genes to Cells 上村匡編集長からのメッセージ(2025年1月)

本年1月より、日本分子生物学会のオフィシャルジャーナルGenes to Cellsの編集長を拝命しました上村です。

1996年の創刊以来30年弱が経ちました。この間、故・富澤純一先生、柳田充弘先生、そして西田栄介先生と三代に渡る編集長のリーダーシップをもちまして、Genes to Cellsは研究者コミュニティに信頼されるジャーナルへと成長して参りました。この過程には、学会員のご支持と、建設的なレビューを返して下さるレフェリーのご協力、そして編集室、出版社、学会事務局間の継続した協力体制があったことは申し上げるまでもありません。今後も伝統を継承することはもちろんのこと、研究者をさらに応援するジャーナルへと発展させる所存です。

この機会に、Genes to Cellsが研究者の要請にどのように柔軟に対応させて頂いているか、手短に説明させて頂きます。まず生命科学関連分野全般の研究成果の発表に利用頂けます。研究のアプローチについてはウェットでもドライでも、新しい発見の報告はもちろん方法論の開発にも、研究室内での産物に限らず野外で採取した試料の解析にも、門戸を開いています。また、Original articleに加えて、短いフォーマットとしてBrief reportを受け付けています。さらに、論文発表に伴う様々な状況については、編集委員やoffice@genestocells.jpに日本語でご相談頂けます。例えば急いで発表されたい場合や、興味深い観察の記述の一方でそのメカニズム解明に至っていない場合などです。最後に、投稿料がかからずに発表できる選択肢があることをリマインドさせて頂きます。

論文出版を含めて自然科学界全体はすでに激動の時代に入っています。私ども研究者は、自身の研究遂行上のデータ品質管理に関する大小の問題に常に悩みつつ、オープンアクセス費用の高騰や生成AIの研究現場への導入など次々と新しい事態に直面しています。Genes to Cellsはこれらの諸問題を皆様が議論するプラットフォームであるともお考え頂きたいと思います。実際に、日本分子生物学会年会のセッションで会員やGenes to Cells関係者が議論して参りました(最近の資料及び文献:1~6)。国内外の他の学会やジャーナルとも、今まで以上に諸問題を共有していくことが欠かせないと考えています。

ご存知のように2011年から始めている日本風の凝った表紙画についても、アイディアを引き続き募集していますので、編集室までお知らせください。

皆様からのご投稿を心よりお待ちしています。そしてGenes to Cellsに発表下さった論文をご自身の次の論文や学会発表でぜひ引用して、積極的に宣伝してください。どうぞよろしくお願いいたします。

Genes to Cells編集長
上村 匡
office@genestocells.jp

資料及び文献:

  1. 研究倫理委員会企画・研究倫理ランチョンセミナー「私たちはどのように自分の論文を発表すべきなのか?:変化しつつある学術雑誌の動向を探る」
  2. Researchers support preprints and open access publishing, but with reservations: A questionnaire survey of MBSJ members. Kazuki Ide and Jun-Ichi Nakayama. PubMed ID: 36876468.
  3. Let’s enjoy the heated "Debate Forum" (Gekiron Colosseo) at Makuhari Messe: A report of the 45th Annual Meeting of the Molecular Biology Society of Japan (MBSJ2022). Tatsuo Fukagawa. PubMed ID: 36929308.
  4. 研究倫理委員会企画・研究倫理フォーラム「生成AIと科学研究: 共創の未来を目指して」開催報告. 二階堂 愛.
  5. Publishing in the Open Access and Open Science era. Masanori Arita et al. PubMed ID: 38351723.
  6. 研究倫理委員会企画・研究倫理ランチョンセミナー「最近の学術論文の動向:フェイク論文が増えている?学術的品質保証の必要性」開催報告. 大谷 直子.

2018年4月 西田栄介(2018.4~2024.12)

この4月より、Genes to Cellsの新しい編集長に就任した西田です。

1996年の創刊以来、故・富澤純一先生、そして柳田充弘前編集長のもと、Genes to Cellsは研究者コミュニティから信頼されるジャーナルとして、22年余の時を刻んできました。今後もこの伝統を絶やすことなく、著者や読者の皆様とのフレンドリーなコミュニケーションを通じて、愛されるジャーナルとして益々成長させ、次世代に引き継いでいく所存です。

Genes to Cellsに関して、「敷居が少し高い」「レビューが厳しい」という印象をお持ちの方がいらっしゃるのではないかと思います。確かに創刊以来、Genes to Cellsは厳格に運営してきました。レフェリーの方々も、そのような雰囲気を汲んでくださったのかもしれません。

もちろん、今後も厳格に取り組む方針に変わりはありません。しかし同時に、研究者がジャーナルに求めることに、Genes to Cellsは皆さんのイメージ以上に柔軟に応えうるジャーナルなのです。

この機会に、Genes to Cellsは皆様自身が育てていくジャーナルである、という意識を持っていただきたいと思います。面白い発見や観察があれば、そのメカニズムの解明が十分でなくても、まずは投稿してみてください。レフェリーの査読コメントが厳しすぎると感じても、すぐには諦めずに、編集委員に相談してみてください。

そして、最終的に論文が出ても、誰かが引用しなければ埋もれてしまいます。引用が、さらなる引用を呼ぶのです。是非、引用してください。また、あらゆる機会を利用して、周りの研究者に宣伝してください。

皆様からのご投稿を、心よりお待ちしています。ご投稿に際して分からない点があれば、編集室 までお気軽にご連絡ください。また、ご投稿に先だって、編集委員にご相談いただいて結構です。編集委員のリストはこちらにあります

そしてご存知のように、2011年から始めている日本風の凝った表紙画についても継続します。
こちらのアイディアも常に募集しておりますので、ぜひ編集室までお知らせください。

どうぞよろしくお願いいたします。

Genes to Cells編集長
西田 栄介
office@genestocells.jp

2008年2月 柳田充弘(2006.1~2018.3)

分子生物学会国際ジャーナル「Genes to Cells」編集長より現状報告と投稿のお願い

分子生物学会会員の皆様

学会の機関誌である『Genes to Cells』は国際誌として富澤純一先生が創刊以来12年がすでに経過いたしました。これまでに約1000編の原著論文及び70編のReview(総説)を刊行いたしまして、国際的にもよく知られた存在となっております。皆様がご承知のとおり、学会会費のなかにオンラインでの購読料が含まれています。ログインして自由に読む読者としてだけでなく、投稿・発表して著者として、また投稿論文のレフェリーやさらにはエディターの役割を会員の皆様には担っていただいております。そういうわけで本誌はひろく世界に向かっている面と、一方で学会会員に役立つ面の両方での存在意義が常に問われているわけです。このご案内は、編集長を富澤先生より引き継いでおりますわたくしが、会員の皆様に『Genes to Cells』の現状をお伝えし、そしてあわせて投稿のお願いをするのが目的です。

出版社が昨年Wiley-Blackwell社に変更になりまして、契約の見直しなどもあり、財政面での状況は著しく改善されました。今年度は編集などの運営費が黒字になることが予想されております。これまで学会の財政に多大の負担をかけておりましたが、今後本誌がより多くの人々に読まれそして引用され、本誌がますます発展いたしますと、学会が半分の持ち分を持つということで、財政面の寄与も大きくなり会費の中に含まれているオンライン購読が無料になるのも夢物語ではなくなります。ぜひ、会員の皆様にも「自分たちのジャーナル」として『Genes to Cells』に関心をもって頂きたくぞんじます。なお学会の会員であるので無料で読むことが出来ますが、ログインのしかたなどは学会のホームページからお入りください。なお学会ホームページから入るようになっているHighwireの『Genes to Cells』の本誌についての情報はかなり古いものなのでご注意ください。

投稿論文の内容につきましては、『Genes』と『Cells』を広くとっていただきましたら、どのような分子生物学のトピックも含まれると思います。内容的にしっかりした、長い時間経過に耐えられるような論文内容がこれまで多く発表されてきました。時代のさきがけになるような先駆的な研究は大歓迎ですし、競争の激しい分野での研究論文も出来るだけ早く公表されるように効率的な編集業務をするべく努力をしております。また、論文投稿に際し、担当のEditorを指定されてもされなくても同様に審査されます。投稿経験のあるかたで、『Genes to Cells』についてのご不満、ご意見などがございましたら、わたくし宛にメールでぜひお知らせください。

ジャーナルの評価の一つであるインパクトファクターは現在3.5強です。わたくしたちはこれを5程度にすることを目標の一つにしております。実際には100回以上引用されている論文が多数あることも事実で、優れた論文を発表して見逃されるようなことは絶対にありません。もう一つの評価であるオンラインでの論文ファイルのダウンロード数ですが、『Genes to Cells』はSynergy (現・WILEY InterScience) とHighwireの2つのオンラインサイトで読むことが可能なのですが、Synergyのほうだけでも昨年2007年一年間に12万回の論文ファイルのダウンロードがありました。12年間の総発行論文数が1000であることを考慮すると『Genes to Cells』の論文がいかによく読まれているか、納得されるとおもわれます。2007年中のダウンロード数を細かく見ますと、2007年刊行の1−12月号について全部で3万回、10年も前の1998年の論文に対しても4千回以上もありました。一年間で100報程度の総論文数であることを考慮すると現在の『Genes to Cells』の世界においての読まれ方、アクセスのされかたの高さがご理解されるかと思います。この読まれ方の高さが、引用の高さに結びつくようにするのが、わたくしたちの目標の一つです。

次回論文を投稿されるときに、ぜひ『Genes to Cells』もぜひ一つの候補として発表の場を考えてください。学会の若手の研究者には『Genes to Cells』にぜひ親近感を抱いて頂いて、自分たちのジャーナルとして考えていただきたい、と願っております。原著論文、レビューどちらにおいても投稿を歓迎いたします。

この1月半ばよりOnline投稿サイトがバージョンアップし、従来に比べて投稿が著しく簡便になります。投稿手順につきましては、Genes to CellsのHPにてご確認ください。論文のレフェリーをする場合のアクセスなども容易になります。

現在この雑誌の編集は、三人の編集アシスタントが主に業務を取り扱っておりまして、多くの日本人及び外国人のEditorの方たちにもご協力いただいております。『Genes to Cells』についてどのようなお尋ねにも対応しております。どうぞお気軽に質問などをしてください。メールアドレスは以下のとおりです。

Genes to Cells 編集室

それでは、皆様からのご投稿をお待ちいたしております。

2008年2月

Genes to Cells 編集長
柳田充弘

1995年3月 富澤純一(1996.1~2005.12)

富澤 純一

1989年の日本分子生物学会の年会の折、会長を含む何人かの方々から、帰国後間もない私に英文国際誌の刊行に携わらないか、とのお誘いがあった。その時、1960年代中頃に分子遺伝研究グループで英文誌をもつのが望ましいとする声があったのを思い起こした。当時その動きは学士院紀要を活用したらといったところにとどまった。お誘いを受けて、英文国際誌の発刊は、日本の分子生物学研究者の連綿として続いた期待であるのを感じた。

国際誌の発刊についての学会員諸氏のお考えと、私の状況判断とに大きな違いがないものと考え、約3年前に私は具体的にその手立てを考えることを引受けさせていただいた。その後、分野の決定、編集形態の検討、編集委員の選定、雑誌名の決定、出版社の選定、編集と出版の費用および購読費の検討等、実に多様な問題を考えることが必要になるとともに、私自身がそれらの処理にかかわることになってしまった。

発刊に至る経過の詳細はこれまでの会報にゆずり、雑誌の特徴を中心に記すことにする。「名が体をあらわす」のが理想的である。雑誌名を「Genes to Cells」に決めるまでに2年を要した。この名は雑誌が扱う研究の範囲をあらわし、GenesとCellsが複数であるのは、将来盛んになると予想される複数の遺伝子(反応系)、複数の細胞(組織、個体)を扱う研究を考えたためである。toは研究対象の範囲を示すとともに、実験または思考上の主な方向を示している。ただし、素反応についての論文を排するものではない。反応機構の理解を主な対象とし単なる記述的、観察的な論文を排除するため「Devoted to Molecular and Cellular Mechanisms」という副題を付けた。ほとんどの日本分子生物学会会員の研究で、この趣旨に添うものを、この雑誌で扱うことができることも考慮した。ただし、基礎的な分子細胞生物学研究の論文を主な対象と考え、Mechanismの理解を直接的な目的としないBiotechnologyの論文をその対象から外した。

編集は1名のEditor-in-Chief、11名のEditors、約70名のAssociate Editorsが行う。日本からの編集員の数は約1/4で、任期は3年である。それぞれのEditorまたはAssociate Editorは著者からの投稿を受理し、採否を決定する。この編集形態は、外国からの投稿を容易にし、出版までの時間を短かくすることを考え、さらに我が国の経済的事情(編集部の施設、人員に関わる費用等)を考慮したものである。

EditorsおよびAssociate Editorsとして、活発に研究を行なっている方々を主に招待した。国内外のどの雑誌にも引けを取らないメンバーを揃えることができたと思う。考えようによっては、単なる雑用とも取られる役割に外国から招待した方々の約2/3のご賛同を得られたのは、私の予想を越えたものである。このことは我が国のこの分野の研究が、それなりに高く評価されていることを示すとともに、雑誌の出版を通じての日本の研究者の国際的貢献に協力する意図のあらわれであると思う。

さて、期待する雑誌と言えば、「読んだ方に喜んでいただくもの」の一言に尽きると思う。「面白いもの、優れたもの」と言い換えることもできる。「投稿者に役立つもの」という期待は、その結果として達せられるべきものと思う。この方針のもとに、適当な論文数をもち、労力と費用当たりの効果が大きな雑誌をつくることを目指したい。このためにEditorsおよびAssociate Editorsのご協力と、投稿する方々のご理解をお願いしたい。ふさわしい論文のご投稿を期待している。また。論文審査等のために多くの方々のご協力をお願いしたい。

1960年代を思い起こせば、当時のこの分野の空気は国際的にみても今日ほどの世知辛さはなかった。我が国の分子生物研究者から現在のような論文発表についての困難を聞いた覚えがない。それにもかかわらず、当時の研究者が国際誌の発刊を思ったのは、個人の利得を越えた、我が国の研究者の国際的な貢献についての責務と期待の現われであったと思う。思い上がりと思われるかもしれないが、当時の我が国のこの分野での成果が国際的に比較して、現在より劣っていたとは思わない。当時の状況が現在のものと全く異なっているのは、当時の我が国の優れた研究のほとんどが、何らかの形で米国の補助を受けていたことである。現在では我が国の研究の経済的基盤は不十分ながら整ったと考えられる。30年前に我々が夢見たのとは異なり、国際的な貢献を通じての成果を現実のものとして内外の研究者に役立てることが期待できる状況が作られつつあると思う。そのためにも、我が国の研究の状況を反映した情報の発信としての意義を兼ねた雑誌に育つことが望ましい。

出版は意欲と経験とを考慮して英国OxfordのBlackwell Science社に依頼した。1996年1月からの月刊を予定している。編集費は日本側が、出版費は出版社が負担する。出版社の初期の赤字はかなり大きい。将来利益が出たときは、その8%は学会のものとなる契約であるが、当座は期待すべくもない。

優れた編集者グループを持つことは雑誌が成功するための一つの条件にすぎない。皆さんから優れた論文を投稿していただき、質の高い雑誌を目指すことは、次に重要な条件である。一方、雑誌の成功にとって、発行部数は無視できない要因である。多数の購読は単価を下げ、国外の購読者数の増加をもたらす。このようにして、諸外国の研究者に我が国で行なわれる優れた研究を周知させるよう有効な機会が作られることが期待される。

この雑誌を発行する目的の一つが、国際的な事業を通じて、学問の進展に貢献するとともに、我が国の研究者の活力と主張とを世界に表明する機会を作ることにあるのをご理解いただき、日本分子生物学会会員の方々一人一人が、本誌の購読を通じて、その成長に参画されることをお願いしたい。なお、購読の方法等については次の会報に掲載する予定である。

この雑誌の発刊にあたって、これまでご協力くださった多くの方々、特に、学会や出版社との交渉で大変ご苦労された東京大学分子細胞生物学研究所の大石道夫さんに感謝する。

*会報50号(1995年3月)より