第19期(2015-2016) 荒木弘之理事長

第19期理事長挨拶

会員の皆様へ

 19期の理事長に選任され、これからの2年間の学会運営を担当する事になりました。微力ではありますが、本学会のために尽くす所存ですので、どうぞよろしくお願いします。

 本学会が設立されたとき、私は大学院生でしたが、会員数も600名程度で、年会での発表会場は2つでした。それ以前は関連分野の人が集まって、シンポジウムとして1会場で行っていましたから、2会場になっただけでも随分大きくなったと思ったものです。現在のように7千名を越える年会参加者がある学会になろうとは思ってもいませんでした。分子生物学の方法論が多くの分野に取り入れられるとともに、本学会が多様な分野を積極的に取り込んできたためでしょう。しかし、大きな学会の抱える問題が色々と顕在化しているように思えます。

 「多様性」は生物学における重要なキーワードですが、学会においても、今の日本の社会においても、重要であると思います。本学会で進めています男女共同参画を含むキャリアパスの形成においても、女性の積極的な登用とともに多様な働き方を認めていけば、有為な人材を育ててゆくことができます。海外からの研究者の採用も同じでしょうし、異なる文化で育った人たちが一緒に研究を進める上でも重要な要素です。多様性を認めることは、異なる才能を見いだす基本となるのです。本学会でも、多様性を忘れることなく、運営を進めて行きたいと思います。

 本学会の年会は、主催者に運営を任せるというスタンスで進められています。その中でも、年会の一部が英語で進められています。大学のグローバル化が叫ばれて久しいのですが、もう一歩英語化が進まないかとも思います。単に日本で研究をする人の発表の場であるだけでなく、近隣の国々からの参加者もいますから、それらの人々にとっても有益な会であればと思うのです。そのことが、海外からの参加者を増やし、よりよい研究会になるのではないでしょうか。逆に、研究の場に日本語を残すことも必要です。発想や思考方法は文化に根ざしたものです。言葉は文化を築き上げる重要な要素です。異なる文化に根ざした発想が相互作用することによって新たな研究の進展をもたらしてこそ、我々が日本で研究している意味が生まれてくると考えるのです。この英語化と日本語のバランスをうまくとることが重要であると思います。

 昨今、画像処理技術の発達とともに、論文に掲載された図への疑義が取り上げられ、研究公正性が強く認識されてきています。分子生物学会ではこれまでも若手教育の一環としてこの問題を取り上げてきましたが、今後もそれを継続する必要があります。一方で、“Research Integrity”は、研究公正性という言葉ではその本質を表してないのではないでしょうか。真理の解明に向けて研究に真摯に向かう心の持ちようこそ、研究者となる神髄であり、“Integrity”だと思うのです。これは研究を進める中で、指導者から学生へ、また先輩から後輩へと受け継がれて行くものであり、我々は一層、研究の現場での対応をこころがける必要があります。学会が、これらについての議論の場となることを望みます。

 学会の活動として社会との関係も重要です。本学会では、高校への出前授業の仲介や高校生による年会での発表会等を通じて、社会の学会への認識を高めるとともに次世代の研究者を育むことを目指しています。また我々の研究費の大半は国民の税金により支えられていますので、国民への説明責任があります。そのため、最先端の研究を分かり易く説明する公開講演会等についても、機会を得て進めて行きます。一方で、研究費の配分方法等の科学行政についても、関係者との意見交換をする機会があればと考えています。

 とりとめもなく自分の考えを書いて参りましたが、今後とも皆様の分子生物学会への暖かいご支援をお願いします。

2015年1月
三島にて
荒木 弘之(国立遺伝学研究所)

理事長メッセージ/お見舞い

2016年4月18日

このたびの地震で被災された皆様へ心からお見舞いを申しあげます。多くの方々が犠牲になり、深く哀悼の意を表します。余震のなかでの生活を余儀なくされている方々が、一刻も早く平穏な生活ができるようになることを心より願っております。

今現在、地震下で避難生活のため研究どころではない状況のようですが、建物の損傷、機器の破損、研究室のサンプルの混乱などから察するに、この地域での今後の研究活動に大きな支障が出ていると予想しています。

日本分子生物学会としては、出来るだけこの地域の学会員を支えていきたいと考えています。2011年3月11日の東北大震災の際は、研究員の受け入れが可能な機関の情報等をホームページで公開してきました。今回もこの活動をする予定ですので、支援を必要としている方、支援を予定されている機関等の情報をお知らせいただければ対応したいと思います。また、機関単位でなくとも関連研究室間での支援や研究員・学生の受け入れ・派遣などについてもサポートしたいと思いますので、そのような情報も合わせてお知らせいただければ幸いです。

会員の皆様におかれましては、ご要望や研究をサポートするためにどんなことでも良いので、ぜひ、ご提案をお寄せいただければと思います。特に、皆様のご経験などから、より実践的なアイディアをお知らせいただけると助かります。

今後の皆様からのご協力をお願い申し上げます。

日本分子生物学会
理事長 荒木弘之

理事長からのメッセージ(2016年5月)

 新緑の美しい季節となってきました。年度の始まりに、新たな発展を願う方々も多いのではないでしょうか。残念なことに、熊本を震源とした強い地震が襲い、熊本や大分では今も余震が続いています。被災された方々には心よりお見舞い申しあげます。

 このような時に学会として何をするべきかは悩むところです。学会員が無事で、早く研究の場に戻り、研究を続行できることがまずは肝要であると考えています。そのためには、一時的に研究をする場所の提供や実験材料の保管等のサポートが必要です。学会にできることは、そのようなサポートを申し出ている機関あるいは研究室と被災された方々のリエゾンであろうと考え、学会ホームページに「復興支援ネットワーク掲示板」を立ち上げました。5年前の東北大震災の際にも、同様の掲示板を立ち上げ、成果があったものと思います。また、多数の学会員が所属される機関が寄付を募られていることから、理事会の承認を得て、少額ではありますが寄付をさせて頂きました。今回の震災への対応は、十分ではなかったとしても、5年前に比較して迅速にできました。5年前も執行部の一員として、学会としてどう対応するかの議論をしました。その経験が今回は生かされています。今後も学会として、このような災害に直面した時にどのように対応するべきかは、議論を進めて行く必要があります。

 今回の震災の際もそうですが、学会執行部は理事会の意見を聞きながら学会の運営を行っています。震災への早い対応を望む理事の声や、対応の仕方への意見など多々ありました。学会の震災への対応だけでなく、今後 本学会がどのように運営されるべきかは、理事の中でも様々な意見があります。日本分子生物学会は非常に自由な学会で形式張ったことがきらいな人達の集まりというのが、多くの方が持っていらっしゃる本学会の印象ではないでしょうか。しかし、学会が大きくなり、法人格を持つようになってくると、社会的な責任も出てきますし、学会のあるべき姿を考えざるを得ません。今後の学会の方向性については理事会で議論をしていますが、既に次期理事の選挙の時期になってきています。理事会は、学会員の意見を反映し、理事一人一人の見識に支えられています。会員の皆様には、是非理事選挙に参加され、理事として学会のためひいては日本の学問のために働いて下さる方をお選び下さるようお願いします。

 最後に、震災に遭われた方の早い復帰と研究の進展を願って筆を置きます。

日本分子生物学会
理事長 荒木弘之

大隅良典先生 ノーベル生理学・医学賞受賞

2016年10月

会員の皆さま

日本分子生物学会
第19期理事長 荒木弘之

本学会会員の大隅良典栄誉教授(東京工業大学科学技術創成研究院)がノーベル生理学・医学賞を受賞されました。
心よりお祝い申し上げます。
大隅先生のますますの研究のご発展をお祈りいたします。

なお、本学会誌『Genes to Cells』への大隅研究室からの投稿論文は以下のとおりですので、ご紹介いたします。

Genes to Cells 14(5), 525-538 (2009)
Atg17 recruits Atg9 to organize the pre-autophagosomal structure
Takayuki Sekito, Tomoko Kawamata, Rie Ichikawa, Kuninori Suzuki and Yoshinori Ohsumi
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1365-2443.2009.01299.x

Genes to Cells 13(12), 1211-1218 (2008)
Structural basis of target recognition by Atg8/LC3 during selective autophagy
Nobuo N. Noda, Hiroyuki Kumeta, Hitoshi Nakatogawa, Kenji Satoo, Wakana Adachi, Junko Ishii, Yuko Fujioka, Yoshinori Ohsumi and Fuyuhiko Inagaki
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1365-2443.2008.01238.x

Genes to Cells 13(6), 537-547 (2008)
Transport of phosphatidylinositol 3-phosphate into the vacuole via autophagic membranes in Saccharomyces cerevisiae
Keisuke Obara, Takeshi Noda, Kaori Niimi and Yoshinori Ohsumi
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1365-2443.2008.01188.x

Genes to Cells 12(2), 209-218 (2007)
Hierarchy of Atg proteins in pre-autophagosomal structure organization
Kuninori Suzuki, Yuka Kubota, Takayuki Sekito and Yoshinori Ohsumi
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1365-2443.2007.01050.x

Genes to Cells 9(7), 611-618 (2004)
The crystal structure of microtubule-associated protein light chain 3, a mammalian homologue of Saccharomyces cerevisiae Atg8
Kenji Sugawara, Nobuo N. Suzuki, Yuko Fujioka, Noboru Mizushima, Yoshinori Ohsumi and Fuyuhiko Inagaki
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1356-9597.2004.00750.x