日本分子生物学会・第2回男女共同参画シンポジウム「キャリア形成とライフサイクル」(2003年12月)

日本分子生物学会
第2回男女共同参画シンポジウムの報告集

平成15年12月12日(金)18:15~20:15 神戸国際会議場

「キャリア形成とライフサイクル」

日本分子生物学会では、毎年年会を利用して男女共同参画シンポジウムを開催している。

今回、平成15年12月12日(金)、神戸国際会議場で開催した第2回男女共同参画シンポジウム「キャリア形成とライフサイクル」の講演者にお願いして、ホームページのこのコーナーのために、講演の要旨とその後について文章をよせていただいた。

第2回シンポジウムの主なテーマは以下の2点であった。
1.キャリア形成とライフサイクルは、どうしてもコンフリクトするのか?
2.研究者の育児休暇制度を有効に定着させるためには、何が必要か?

大学院生やポスドクの時期に出産を経験し、別居同居を重ねつつ育児を続けながら、さまざまな分野で活躍している研究者に、自己の経験をもとにしたノウハウと問題点を話していただいた。男女を問わず、後輩のポスドクや院生が力づけられること、教授、助教授クラスも含めて、そのような女性研究者の前向きの生き方を、是非とも理解し、可能性を信じてほしいというのがオーガナイザーの希望であった。

プログラムと内容は以下のとおり。

① 会頭挨拶: 勝木元也(基生研・所長)

② 分子生物学会における男女共同参画社会の実現に向けて: 山本正幸(東京大・理)・・分子生物学会の男女共同参画のとりくみについて現状報告。

③ 男女共同参画・トリビアの泉: 本橋令子・亀井綾子(理研・横浜)
要旨 スライド(MPEG4)
我が国の女性研究者の現状を、教授職に占める女性比率や、GEM(ジェンダー・エンパワーメント・インデックス;女性の活躍度)

④ 出産、学業、育児、研究、別居、就職...欲張りな私の選択と工夫: 平田たつみ(国立遺伝研)
大学院生時代に出産、5回の引っ越し、子連れ赴任、独立と多忙を極めた14年間を横軸に、キャリア形成とお子さんの成長をプロット、両立の大変さとそれをのりこえるエネルギーや工夫がリアルにわかる名講演でした。ポスドク制度への提案等もふくめて、大変エネルギッシュかつ客観的に話していただきました。

⑤ 「さきがけ」で出産、子連れ研究の10年-: 吉田祥子(豊橋技科大・工)
さきがけ研究者のただ中に妊娠・出産し、子連れ赴任を経て研究を続けた経験を話していただきました。「時限職が子供を産む」ことの利点・問題点と、育ててみてはじめてわかった「数々の育児に関する常識の嘘」子連れ研究ノウハウ、子育てにかかった費用の経時変化、子育てと論文数の相関等、興味深い話が満載。「子供と共生できる社会を!!」という締めくくりが印象的でした。

⑥ 子育てと研究の両立の一つの選択肢としての単身赴任: 篠原美紀(広島大・原医研)
要旨 スライド(MPEG4)

「子供と主人は大阪に、私は広島にという単身赴任生活。子供か研究か?という切羽詰まった選択ではなく、両立のための一つの選択肢としてお話します。」との前置き通り、気負わない柔軟な語り口が好評でした。独立した研究者となるためのステップとしての単身赴任も家族の理解に支えられてこそと実感しました。

⑦ 理研の男女共同参画への取り組み?育児支援を中心に?: 大河内真(理化学研・総務部長)
要旨
理研の出産、育児等に対する支援システムの現状と問題点について紹介。全職員(約 2,700名)の73%が任期制研究員で、その約40%を20?30代の女性研究者がしめる理研では、2003年度から裁量労同性を導入、2004年度から理研・和光に、理研初の30名規模の保育室を設置するとのこと。任期制研究者が育児休業をとりずらい現状を改善するために、評価制度の透明化や相談窓口の設置を考えているとの希望のもてるお話でした。

⑧ 男性が気軽に研究と子育てを両立させるには: 伊藤啓(東京大・分生研)
2003年度分子生物学会年会保育室の担当として、簡単な報告。ついで、父母ともに、キャリア形成と子育て真っ最中の「父親」として、女性がキャリアと子育てを実現しやすくする環境は、実は男性にとっても同じことなのだとの日頃の実感の披露。数々の両立の工夫も合わせて報告。

⑨ 男女共同参画:個人レベルから学会・国レベルの流れの中で: 郷 通子(長浜バイオ大学)
科学技術・学術審議会人材委員会の第二次提言」を背景に、日本の女性技術者の現状を分析、日本の学協会に女性の人材はいないという「思いこみ」をなくし、組織の多様性を保つためにも、今、ポジテイブアクションが必要と述べられた。
研究と子育ての両立やキャリアパス設計といった個人レベルの問題から、多様な人材の養成や学会運営に女性を積極的に登用するといった、学会レベルの取り組み、そして、政策決定の場で女性研究者が活躍するといった国レベルで対処まで、女性研究者が活躍するためには、どのような視点が必要か、事例をあげてわかりやすくまとめていただいた。

 

参加者は200名以上、立ち見がでるほどの盛況ぶりであった。特に、多数の若い男性の参加が目立ったが、教授、助教授クラスの男性の参加も多かったのには力づけられた。楽しく力づけられる話ばかりで、内容もバラエテイに富んでいたと大好評であった。「分子生物学会年会の定番イベントになった!?」との声もある。