第2回バイオ系専門職における男女共同参画実態大規模調査の分析結果(概要)

男女共同参画学協会連絡会(http://annex.jsap.or.jp/renrakukai)主催、第2回科学技術系専門職実態調査が、2007年8月20日から11月20日に行われた。日本分子生物学会男女共同参画委員会では、バイオ系研究者・技術者の男女共同参画推進課題を明確化することを目的として、2007年12月に大規模アンケートワーキンググループを発足させ、日本分子生物学会員の回答結果を抽出して分析を行った。分析結果の概要をここに報告する。全分析結果の報告書は、以下のHPアドレス(http://www.mbsj.jp/gender_eq/doc/enq2007_mbsj_rep.pdf)に掲載されている。

 大規模アンケートワーキンググループメンバー; 松尾勲(座長)、松崎文雄(副座長)、大坪久子、金井正美、見学美根子、粂昭苑、赤林英夫(図表化作業担当)
 第15期大隅典子委員長、第16期杉本亜砂子委員長、篠原彰副委員長

回答者数;連絡会全体の大規模アンケート回答総数は14,110件、そのうち分子生物学会員による回答は2,768件(19.6%)であった。全学会員15,962 名に対して回答率は17.3%となる(アンケート実施時)。男女比は分子生物学会員内では男性65.8%、女性34.2%であった(分子生物学会員の男女比は、男性75.7%:女性24.2%)。年齢別では30代の回答率が最も高く、男性は30代後半、女性は30代前半がピークであった。

仕事時間の男女差;職場での仕事時間は、配偶者がいない場合は平均勤務時間の男女差はほとんど認められなかったが、配偶者がいる場合には、女性の勤務時間が男性と比較して週10~15時間短くなり、子どもがいると更に週10時間程度も短くなっていた。子どものいる女性の勤務時間の短縮傾向は、子育て期間の終了する年齢である45~50歳頃に解消することから、子育て時期の女性が時間的制約を大きく受けることを反映している。

理想の職;将来の望ましい職は男女とも大学等で研究に従事することであった。男性の6割が研究室を主宰することを理想と考えるのに対して、女性はその比率は3割以下に留まる。むしろ女性の場合は、必ずしもPIでなくとも大学や企業で研究に従事することを期待する人が5割に達した。この数字は、男性に比べて女性はPI願望(研究リーダーとなる希望)が相対的に低いことを示す。また理想の職に就くために必要事項として、男性は、「知的能力や専門知識」に加えて、「リーダーシップや管理能力」を挙げている一方、女性では、「上司の理解協力」と「家庭の理解協力」を挙げる人が多くみられた。女性回答者の少数に「性別」つまり男性であることを挙げていた事実は無視できない。

研究開発費獲得の男女差;取得研究費の額に関して、企業、大学、公立研究所の区別なく、どの年齢層でも男性が女性の取得額を大きく上回っていた。抽出を大学所属博士号取得者に絞った場合には、結婚して子どもをもつ女性は、男性と比べて平均700万円/年以上も獲得予算が少ない。男性の研究費獲得額は博士号の有無に関わらず、未婚者に比べて既婚者のほうがより多く、更に既婚者の間で比べると、子どもがいない人よりいる人の方が多かった。しかし女性では正反対の傾向が認められた。即ち、未婚者の方が既婚者より獲得研究費が多く、この傾向はPIに限っても同様である。結婚している女性研究者(特に、子どもをもつ女性)にとって、研究費獲得というキャリア・ディベロップメントが困難であることが窺える。

任期付き職・ポスドク職の現状;学会員の雇用形態の現状は、常勤任期無し職は男性で44%、女性で32%に過ぎず、4年前に比べ、10ポイント減少し、逆に任期付き職・非常勤職が同ポイント増加した。任期付き職・非常勤職が任期無し職の比率を上回っている事実は学会として最重要視すべき問題と思われる。雇用任期は、1年間が男性3割、女性4割程度であり、再任可は男女ともその半数に留まる。以上の結果から、就業学会員の4分の1が再任制限のある職に就いているという現状が明確となった。これは、ボスドク後の再任制限のない常勤職が大幅に不足している現状を反映している。次に年齢別雇用形態を見ると、30代前半では男女とも任期付き職・非常勤職に就いている人が8割近くで、30代後半でも男性の6割、女性の7割を占めている。つまり大多数の学会員は、雇用環境が不安定な状態で出産・育児の時期を迎える事実が浮き彫りになった。男性では40代でも3割以上が、女性では50代前半まで4割以上が任期付き職・非常勤職に就いていた。特記すべきは、10年以上任期付き職にある人が男女とも1割程度占めることである。以上の結果は任期付き職・非常勤職が、PIになるまでの一時的なものではなく、一生涯にわたって続く雇用形態であることを示す。年収に関しては、博士号取得者のうち年収300万未満が7%も存在する(内16人が無給者)。また、博士号未取得者のうち年収200万円未満が4割もいた(内189人が無給者)。このように、適正賃金とかけ離れた(ワーキングプア)研究者・技術者が回答会員2,768人中500人以上も存在する。収入300万未満の人の割合は男性では2%であるのに対して女性では14%を占める。任期の年数と配偶者及び子どもの有無について分析すると、任期の長い職に就いている人ほど、子どもありと回答していた。特に男性では、任期が5 年以上の人が、子どもありの51%を占めているのに対して、任期が短い人ほど未婚率が上昇した。男性が結婚し子どもをもつためには、5年以上の長い任期が必要であること、つまり任期が5年未満であると、「結婚して子どもをもつ」ための環境を整えにくい事実が窺える。

ポスドク制度の問題点と改善点;ポスドク制度の利点については、「全く利点は無い」という極端な意見が1割にものぼる。回答者をPIに絞っても同じ傾向が見られた。つまり現在のポスドク制度は、利点を見出し難い、多くの問題を抱えた制度であることを端的に示す。その欠点については、「その後のポジションが少ない」が8割、「生涯設計を立てにくい」や「任期の見通しがつかない」が6割であった。また、「年齢制限があること」や「育児休業しにくい」といった指摘が女性に多く見られる。「問題点が無い」とする回答者がほとんど無く、現行ポスドク制度の欠点を多くの人が認めていた。ポスドク制度の改善点として8割の回答が「独立しなくとも研究を行う常勤職」を挙げていた。現在、PI職を希望しない研究者が多数存在する。この結果から、「独立しなくとも研究を行う常勤職」を新たに創設あるいは大幅に増やすことが急務と考えられる。

仕事と家庭の両立;配偶者ありは男性65%、女性51%で、女性研究者・技術者は男性より配偶者を持ちにくい事実が窺える。単身赴任に関しては、男性では、3割以上、女性では約5割が単身赴任を経験していた。その経験年数は、男女ともに10年以上が高い割合で認められた。子どもの人数については、4年前のアンケートの結果と比較すると、男性において少子化が一層進んでいた。この結果は不安定な任期付職が増加したことのデメリットの1つと推測される。生涯における理想の子ども数は男女ともに「2~3人」との回答が8割を占めるが、男性では約半数が、女性では約3分の2が現実的には「達成不可能」と考えている。その理由として、男性は「経済上」、「職の安定」を、女性は「育児とキャリア形成の両立」、「職場の理解」、「配偶者の協力」を挙げている。技術者・研究者、更には、指導的地位に女性が少ない理由では同様な回答が目立った。「家庭と仕事の両立が困難」、「育児期間後の復帰が困難」、「採用時の業績評価において配慮がない」、「評価者に男性を優先する意識がある」の順であった。女性に家庭の負担が集中していることが指導的な立場になるための障害となっていることが窺える。8割近い女性が男女に処遇差があると感じていたことから、男女間に現状認識に大きなギャップがあることが明らかとなった。

男女共同参画・施策について;所属職場に「女性研究者比率の数値目標があるべきか」という問いに対し、「定めるべき」とした女性は4割に対し、男性では2割以下であった。任期付職・非常勤職に就いている回答者で男女差が最も大きく、9割以上の男性が「定めるべきでない」としているが、女性では4-5割が目標の導入を歓迎している。女性が雇用の機会の拡大を期待しているのに対し、男性は雇用・昇進への危機感を感じているのが事実であろう。所属機関、学会、世の中の男女共同参画の流れについて、4割の人が学会や世の中での変化を感じているのに対して、実際に所属する職場の変化を感じている人は3 割程度であった。この結果から、学会や世の中で支援が進みつつあるという意識はあるが、実際の雇用条件の変革は立ち後れていることを示唆する。「ほとんど変わらない」と答えた割合は女性で高く、「進んでいる」と答えた割合が男性で高かったことは、男女共同参画に対する男女の期待度の違いを反映している。男女共同参画社会の推進のために今後必要と思われることについては、男女とも「男性の意識改革」を一番に挙げていた(男性6割、女性7割)。次に、男性では、「女性の意識改革」(5割)、「育児支援などの拡充」(5割弱)と続く。一方女性では、「育児介護支援などの拡充」(6割)、「多様な勤務体系の拡充」(5割)、等と続いている。女性が多く回答した項目として「上司の理解の促進」、「各種年齢制限の撤廃」、「一定期間の女性優先措置」が挙げられる。

自由記述;寄せられた自由記述内容を見ると、男女共同参画社会の実現に向けて、社会や職場における意識改革への要望、一生涯継続する任期付き雇用制度やポスドク制度の改善要望、子育て期間における両立支援の拡充要望、労働環境の適正化要望や女性研究者数の拡充要望等が数多く見られた。このような記述から、今後これらの重点要望課題の実現に向けて、日本分子生物学会として、国や研究機関に対して強く働きかけを行っていく必要があると思われる。