第19期理事長挨拶

portrait of Prof. Hiroyuki Araki

会員の皆様へ

 19期の理事長に選任され、これからの2年間の学会運営を担当する事になりました。微力ではありますが、本学会のために尽くす所存ですので、どうぞよろしくお願いします。

 本学会が設立されたとき、私は大学院生でしたが、会員数も600名程度で、年会での発表会場は2つでした。それ以前は関連分野の人が集まって、シンポジウムとして1会場で行っていましたから、2会場になっただけでも随分大きくなったと思ったものです。現在のように7千名を越える年会参加者がある学会になろうとは思ってもいませんでした。分子生物学の方法論が多くの分野に取り入れられるとともに、本学会が多様な分野を積極的に取り込んできたためでしょう。しかし、大きな学会の抱える問題が色々と顕在化しているように思えます。

 「多様性」は生物学における重要なキーワードですが、学会においても、今の日本の社会においても、重要であると思います。本学会で進めています男女共同参画を含むキャリアパスの形成においても、女性の積極的な登用とともに多様な働き方を認めていけば、有為な人材を育ててゆくことができます。海外からの研究者の採用も同じでしょうし、異なる文化で育った人たちが一緒に研究を進める上でも重要な要素です。多様性を認めることは、異なる才能を見いだす基本となるのです。本学会でも、多様性を忘れることなく、運営を進めて行きたいと思います。

 本学会の年会は、主催者に運営を任せるというスタンスで進められています。その中でも、年会の一部が英語で進められています。大学のグローバル化が叫ばれて久しいのですが、もう一歩英語化が進まないかとも思います。単に日本で研究をする人の発表の場であるだけでなく、近隣の国々からの参加者もいますから、それらの人々にとっても有益な会であればと思うのです。そのことが、海外からの参加者を増やし、よりよい研究会になるのではないでしょうか。逆に、研究の場に日本語を残すことも必要です。発想や思考方法は文化に根ざしたものです。言葉は文化を築き上げる重要な要素です。異なる文化に根ざした発想が相互作用することによって新たな研究の進展をもたらしてこそ、我々が日本で研究している意味が生まれてくると考えるのです。この英語化と日本語のバランスをうまくとることが重要であると思います。

 昨今、画像処理技術の発達とともに、論文に掲載された図への疑義が取り上げられ、研究公正性が強く認識されてきています。分子生物学会ではこれまでも若手教育の一環としてこの問題を取り上げてきましたが、今後もそれを継続する必要があります。一方で、“Research Integrity”は、研究公正性という言葉ではその本質を表してないのではないでしょうか。真理の解明に向けて研究に真摯に向かう心の持ちようこそ、研究者となる神髄であり、“Integrity”だと思うのです。これは研究を進める中で、指導者から学生へ、また先輩から後輩へと受け継がれて行くものであり、我々は一層、研究の現場での対応をこころがける必要があります。学会が、これらについての議論の場となることを望みます。

 学会の活動として社会との関係も重要です。本学会では、高校への出前授業の仲介や高校生による年会での発表会等を通じて、社会の学会への認識を高めるとともに次世代の研究者を育むことを目指しています。また我々の研究費の大半は国民の税金により支えられていますので、国民への説明責任があります。そのため、最先端の研究を分かり易く説明する公開講演会等についても、機会を得て進めて行きます。一方で、研究費の配分方法等の科学行政についても、関係者との意見交換をする機会があればと考えています。

 とりとめもなく自分の考えを書いて参りましたが、今後とも皆様の分子生物学会への暖かいご支援をお願いします。

2015年1月
三島にて

荒木 弘之(国立遺伝学研究所)